革靴よりも先に私を革へと目覚めさせてくれたのはベルトでした。
厳密に言えば野球のグローブでしたが、磨き愛でて集めるという趣味の始まりはベルトでした。
ジーンズに興味を持つ前からベルトループのあるパンツには必ずベルトを通すと言う習慣があり、Tシャツやポロシャツで見えなくともベルトは必ず通すものとして育ってきましたので自宅内であっても必ず身に付けていました。
90年代リーバイスで初のヴィンテージ復刻モデルが発売開始したのと同時にそれまで何気なく身につけていたベルトにも興味を抱く様になりました。
ベルトに関してはこれまであまり浮気性ということも方向を見失うこともなく着実に歩んできたなと感じられます。
一番長く使っているベルトは20年、次も15年程度、ベルトとして考えなくともかなり長く使っている方だと思います。
2020年3月時点、仕事で着用しているベルトが下記のものです。
ベルトの素材について
特に素材については縛ってはいないのですが気づいたらブライドルレザーのベルトだらけになっていました。
ブライドルレザーといえば磨いた時にコードバンにも通じる光沢と色抜けしていく透明感が特徴、変化が大きいので育てていく楽しさがあります。
メディアでは馬具にも使われた堅牢な素材と言われていますが、カーフと違い適切に手入れをしているつもりでも屈曲により簡単に深いシワができたりひび割れを起こすのは気のせいでしょうか。
恐らく表面が硬く革が厚いせいかと思います。
何を持って堅牢と言うのか、表面の傷や割れや切れは簡単に起こるが引っ張り強度としての耐久性が高いという意味なのか、いまだに私には分かりません。
そうはいってもベルトは姿勢によって強い負荷もかかるしバックル付近は使用するたびに強い屈曲とバックルとの摩擦にも晒されますのでブライドルレザーだけが悪いのではありません。
カーフであっても高級なものはデリケートに扱わないと擦れや光沢の現象等でみすぼらしくなっていきます。
皮革業界全体として新しいほど質が落ちていると言われますが特にブライドルレザーは新しいものは醜いトラの様なシワや簡単に割れてくるものが多い様に感じます。
古い時代の良いものに出会えた時のみブライドルレザー本来の魅力を味わえるのではないでしょうか。
どの様に手入れをするのがブライドルレザーにとってベストなのかわかりませんが、屈強なため油分は多めを心がける必要があると感じます。
もしくはヒビがはいってもガンガン使っていくことで傷も馴染んでその風合いを楽しむと言う意味なのでしょうか。
ともかくドレス用ベルトはずり落ちるトラウザー を止めるためでは無いので圧を感じない程度に締める様にしています。
トラウザーのベルトループにとってもその方が良いでしょう。
私のベルト
エルメス エトリヴィエール ブライドルレザー
エルメス エトリヴィエールに出会ってこれが私にとってのドレスベルトの基準となりました。
バックルは私にとって理想的な美しさです。
一説によると古い馬具のバックルデザインとのことで本来馬具がメインのエルメスらしいデザインです。
ブラックとヌメ革ライトブラウンを使っています。
太さは2.5cmと標準より細めのものを使っています。
過去には3cmも使っていましたがエトリヴィエールのエレガントなバックルには2.5の細さが似合っていると感じたのです。
そしてベルトの痛みも少ない様に感じています。
その光沢と手触り、バックルデザイン、一枚革のしなやかさに使い始めは興奮したものですが、やはりブライドルレザーはエルメスといえども経年変化が怖いです。
デニム用に太めのものも使っていましたが頑張って手入れをしていたにも関わらず背中側が大きく割れてしまい手放してしまいました。
頻繁に手入れをしていたにも関わらず内部まで油分が浸透していない様子でした。
厚みも硬さもあるブライドルレザーの最適な手入れ方法を模索中です。
ヌメ革は飴色に焼けていく変化の状態が好みに達していないことや最適な手入れ方法がわかっていないため痛みが怖くて着用機会はそれほど多くありません。
素材違いで同デザインのカーフも狙っています。
エルメス エトリヴィエール トリヨンクレマンス
トリヨンクレマンスとはエルメスのシボ革素材のことです。
美しいシボとしなやかな素材でエルメスのバッグにもよく使われています。
表裏同じ素材が貼り合わされている無駄なこだわりがハイブランドらしいです。
ベルト製造時にバックルを通した後に革を裏側へ折り返しますがエルメスのベルトはその折り返した先が完璧に面一となる様に薄く削いであります。
本品トリヨンクレマンスに至っては折り返し部分を表と裏の間に挟みこんでおり縫い合わせ部分やベルトの表裏が分からないほどの状態です。
ホワイトハウスコックス ブライドルレザー
上段のエルメスと同じ形状で"日"の様な形状のバックルです。
エルメスに比べると太くて無骨ですがやはりこのデザインが好みです。
今では買えない古いモデルなのですがあまりにもブライドルレザーの質が良いため同じものを別の機会に二つ購入しました。
ブライドルレザーのくせにシワは細かく割れも起こりにくいです。
コバの割れも全く起こりません。
手触りもカーフの様に滑らかで、使い続けると濡れた様な光沢と透き通る様な色抜けができてきます。
芯が入って盛り上がったベルトの形状と厚みのバランス、コバの仕上げ、バックル、全てが最高のベルトです。
ブラックも欲しいと思い常に探し続けているのですがサイズ違いすら見た事がありませんのでもしかすると一色しかないのかもしれません。
全く同じ二つのベルトですが最初から色が微妙に異なるので気分で使い分けています。
使い続けて一つはジョンロブで言うタバコ色、もう一つは赤みがあり暗めのチョコレート色に変わってきました。
二つの差をより明確にしたいので、今後は一つのバックルを鏡面に磨こうかと考えています。
ジョンロブ スエード
エルメスに出会うまでは全てジョンロブのベルトを使っていましたがデザインに振りすぎたせいかベルトのノウハウが無いせいか機能性に劣るモデルが多いです。
結局手元に残ったこちらは一見ベーシックですが実はこだわってデザインされており立体的にJとLを組み合わせているとのことです。
こんなベーシックな形でもバックルやピンのカーブが悪く必要以上に負荷がかかっている様に感じます。
ベルト自体の芯が厚くてしっかりしすぎているのも問題なのでしょうか。
裏はしっとりと吸い付く様な触り心地は良いのですが引っ張りに弱いのかベルト穴がすぐに伸びてきたり切れ目ができたりします。
バックル形状のせいでカーフはすぐに痛んできてしまうので手元にはスエードしか残っていません。
スエードはダークブラウンも持っていたのですがカシミアスエードとも呼ばれる美しい毛並みがより映えるのはタバコブラウンの方だと私は感じているので自然とこちらが残りました。
次なるベルト候補は
余裕があれば靴に合わせてスムースのネイビーとスエードのブラックも欲しいと思っています。
どちらもブラックで対応可能と思っているのでどこかで掘り出し物を見つけた時くらいでしょう。
さらにカーフのブラックも一つは所有したいところです。
ジョンロブにするのか、またはレザーバッグをいくつも愛用しているタスティングがベルトも展開し始めたのでそれも気になっています。
過去に所有してきたベルトたち
これまで所有してきたもので覚えているものは、エッティンガー、ホワイトハウスコックス、グレンロイヤル、ジョンロブ、エドワードグリーン 、アンダーソンズ、J&M デヴィッドソン、ディーゼル、あとはセレクトショップです。
セレクトショップであればショップオリジナルのものはコストを極限までに削られているものが多いので避けるべきだと感じました。
ホワイトハウスコックスのブライドルレザーも使い始めからげんなりする程の低品質で当時のものを知っている身としては価格と見合っていないように感じた覚えがあります。
期待値の高かったエドワードグリーンもイマイチでした。
ベルト穴付近や湾曲部にたくさんのシワがすぐにできるし、バックル形状や留め方の処理にも高級感を感じませんでした。
ただしこれらを手にした時期は狂牛病の影響を受けておりジョンロブでさえも革質がかなり悪化していた時代でした。
2020年エドワードグリーンは革小物にも力を入れている様でベルトも良くなっている様に見えます。
アンダーソンはおしゃれ用としてはコスパの高さを感じます。
例えばブルースエードやライトグレースエード、リングベルトやリボンベルト等のカジュアルも視野にいれた場合です。
上品なデザインが多いせいかバックルの堅牢度に欠け、耐久性はそれなりかなと思います。
グレンロイヤルのカーフには顔料塗装なのか剥がれているものを見たことがあります。全てではないとは思うのですがそう言った革が潜んでいます。
J&M デヴィッドソンは編みベルトを現在も所有しています。バックル形状がお洒落で使い心地も良好、ブライドルレザーの質も悪くはありません。
私が持っている2.5cm以上の太さになるとベルト先端に金具(プンターレ)が付くので華美すぎやしないかと思ってしまいます。
しかし編み込みで2.5は細すぎてあまり使っていません。
ベルトの手入れについて
衣類と接触するベルトの手入れには有色の靴クリームは使わない方が良いかと思います。
ロウ分が多いものも服へと移ってしまいます。
そのため、購入時に今後の色の抜け方や透明感と言った革本来の質、風合いもよく吟味する必要があります。
手入れは手の油だけでも良いとする意見もあり暇を見つけて擦ると良いとの事です。
私も一番長く使っているデニム用のベルトはもうすぐ20年を迎えますが目立ったひび割れや切れはなく油分の補給と言うものは半年から年に一度、数年していなかった時もありました。
それはデニムにも使えるタフな革だったからに違いありません。
スーツやトラウザーに使用するドレッシーな革は頻繁に状態を見てクリームで油分を補ってあげる必要があると思います。
特に高級であればあるほどデリケートである様に感じます。
サフィールノワール ミンクオイル
久しぶりに感動した逸品です。
私が知っていたミンクオイルとは全く違います。
これまで油分を多めに補給したいワークブーツ等にはマスタングペーストを何年も使っていましたが圧倒的にサフィールノワール ミンクオイルが上位互換になります。
手触りは透明な固形石鹸の様な雰囲気でそれを指で撫でてから革へ塗り込みます。
油分は適度な速さで吸収されるため伸ばすことも簡単です。
塗り始めの一部だけが吸収しすぎてまだらに色が暗くなることがありません。
塗り始めてから数分から一週間ほどかけて驚くほどに革へ浸透していきます。
粗悪なミンクオイルの様に表面がベタベタにならず数分後にはサラサラとした手触りになります。
塗布してブラッシングしていくと目に見えて肌理が整っていくこととロウ分が入っていないにも関わらず表面に自然な艶が出てきます。
これがあればデリケートクリーム類は全て不要ではないかと思うほど何にでも使えます。
革が柔らかくなり少しだけ革の色が暗くなるのでそれを避けたい場合は使わない方が良いというくらいでしょうか。
他のクリームとの使い分けに悩みます。
サフィールノワール スペシャルナッパ デリケートクリーム
値段は高いですが最初はこれで良いと思います。
適当に塗りたくってもシミになったり柔らかくなりすぎたりと言ったネガティブな要素が見当たりません。
私は靴のライニングに使っています。
柔らかいゼリーの様なトロトロした頼りない雰囲気ですが圧倒的に革質が回復します。
それでも足りない場合はよりリッチなクリームを重ねれば良いと思います。
革に光沢を出したい場合はロウ分が入っているレノベイタークリームも良いと思います。
サフィールノワール レノベイタークリーム
一気に痛んだ革質が回復し磨くと強い光沢が出ます。
ただし乾くまでに時間がかかることとトロみが強く塗り広げるのが大変で広範囲になれば消費量も増えます。
塗布後のブラッシングもしっかりと行わないと本来の光沢が出ません。
滅多に使わないのですがコロニルシュプリームでも足りないなと感じた時にベルト穴やエッジ等に使います。
私はサフィールノワールのミンクオイルを手に入れてからは使用頻度が下がっていますがオールインワンであることも一つの魅力です。
コロニル1909 シュプリーム デラックス クリーム
少量で伸びが良く塗布直後にブラッシングするだけでキラキラと輝くコロニル シュプリームはベルトや革小物に使い勝手が良くメインに使っています。
クリームが革に吸われ過ぎないためムラなく塗り広げやすく、塗布後にすぐに乾き時間を空けずにブラッシングしても簡単に美しい光沢がでます。
ブライドルレザーやバッファローレザーと言った堅牢な革には浸透が足りていないのでは感じる場面がありました。
奥深くに浸透していくという感じでは無さそうなので厚すぎる革よりもラグジュアリーでデリケートな高級革靴や小物に良いです。
汚れ落とし効果もあるのでふとした空き時間に使っています。
ブライドルレザーの手入れを検討
私の手持ちのベルトのメインは無意識のうちにブライドルレザーになっていました。
正直ブライドルレザーに対してはイマイチな印象がかなりあるのですが手入れ後の光沢やその厚みとしなやかな風合いを見るとどうしてもブライドルレザーを捨て切れません。
かなり気を使っていてもなぜか進行してしまう痛み具合にずっと頭を悩ませて着ました。
私は常に中央の穴を使う様にしていますがこの画像はそれよりも一つ剣先側の穴です。
使っていないにも関わらず細かいヒビや穴に切れができていました。
おそらくバックルに通す際に大きく湾曲すること、撮影時に普通以上に湾曲させているせいだとは思います。
ですが使っていないもう一点の全く同じベルトは同程度の屈曲でヒビが入ることはありませんでした。
つまり状態が劣化していると言うことになります。
ひび割れたベルトにこれまで行なっていた手入れ
コロニルシュプリームのみで行なってきました。
これまでシュプリームとブライドルレザーの愛称はかなり良いと思っていました。
シュプリーム独特の光沢はブライドルレザーの質感をより引き立てると思っていたし肌触りもしっとり、厚手であるからこそのしなやかも手入れによって向上していると感じていたからです。
頻度も半月から遅くとも2ヶ月に一度、既に手に入らないこのベルトに対しては過剰に手入れを行なってきたつもりでした。
しかし割れ方を見ると革の奥に油分が浸透していなかったと言うことなのでしょうか。
その後のリカバリー
曲げた状態のひび割れは指でこするとどんどんささくれ立ってくる様な気がしました。
例えば使い込んだバッグの持ち手等この状態の革に対してはサフィールノワール ミンクオイルが最も効果があると思っていたので使用してみたところどうやら悪化は防げました。
ヒビを指でこするとささくれ立ったエッジが丸く大人しくなりさらにこすり続けることで傷は馴染んで気にならなくなっていきそうな気配もあります。
つまり革の厚みに対して油分が足りないのならばと、シュプリームを厚く塗ってみたのですが表面に留まり塗った分だけ浸透していく様子はありませんでした。
考察
ミンクオイルは最も油分が多いと思われますのでこれを使用して状態が向上したと言うことは油分が足りていなかったということかと思います。
ヒビから断面を観察するとシュプリームでは表面は滑らかにしなやかになったとしても極厚のブライドルレザーの深部まで油分が浸透していない様にも見えます。
シュプリームは浸透は早いながらも過剰に吸収されないため塗り広げやすくシミを作らないと感じていたのですがこれが厚手の革では浸透が足りなかったのかもしれません。
90年初期ジョンロブのバッファローに表面(銀面)はシュプリーム、内側の真皮層へも水分を補給していたにも関わらず履き口のシボから割れてしまったことがありました。
この時もサフィールノワール クレムで仕上げたあとはシュプリームで油分を染み渡らせる様にかなり頻繁に手入れを行なっていましたが内部へ浸透はしていかなかったのかもしれません。
今後の実験
ブライドルレザーのベルト数点に別のクリームで手入れを行なって変化を見たいと思います。
- サフィールノワール レノベイタークリーム:これまでメインで使ったことがなかったので油分の浸透と表面のドレスアップがどうなるのか試したいと思います。
- サフィールノワール ミンクオイル:ミンクオイルでありながら肌理が整うのか自然な光沢が出てきます。現在無色のクリームでは最も上等だと思っています。
- コロニル シュプリーム:たっぷり2、3日に分けて塗布することをワンサイクルとして手入れを行なっていきます。一度に厚塗りしすぎても吸収されていない気がしているので2、3日続けて、さらにこれまでよりは厚めに塗布していきます。
シュプリーム二回塗りは既にジョンロブの靴で実験を始めています。二度目は乾きが遅いように感じますが光沢もしなやかさにも二度塗りの効果を感じています。
これはシュプリームをメインにする場合は頻繁に手入れをする必要があると言うことなのか一度に塗布する量が少なかったのでしょうか。
靴にもベルトにも気軽に使えて万能だと思っていたシュプリームからレノベイターへ変更しようかなとも思い始めています。
財布や名刺入れは革も薄くシュプリームが最適だとは感じているのですが。
さらにバッグやレザージャケットはどうすれば良いのか、まだ検討の余地ありです。