時代と共に変化するジョンロブ 8695ラストを比較する 〜JOHN LOBB WIDNER 8695 90年代後半 VS 00年代 〜
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ジョンロブパリのファンとなってから100足を超えるコレクションとなり感覚的な世代の違いを考察してみることにしました。
偶然にもコレクションの中に全く同じモデルの世代違いがあったことから比較してみました。
同じモデルで比較したのなら時代ごとの作りの違い、古い靴は良い作りであるとはどう言うことなのかはっきりするはずです。
比較する靴はブラインドフルブローグと呼ばれるタイプの靴です。
個人的な話なのですがストレートチップがスーツスタイルに最も適していると言うのはここ20年以内に強く言われてきた様に感じます。
私の見てきた時代(JRのホームや列車でタバコが吸えた時代)はヘンテコなローファーかプレーントゥがスーツスタイルのスタンダードでした。
ブラインドフルブローグとは
爪先にWの切り替え(鳥の羽を開いた状態に似ているためアメリカではウィングチップと呼ばれます)がある靴をフルブローグと言います。
さらにパーツの縁がギザギザ(ピンキング)になっていたり穴飾り(パーフォレーション)が付いていたりします。爪先に穴飾り(メダリオン)が意匠が象られているのが一般的です。
それらの装飾が一切無く爪先のWの切り返しがある靴をブラインドフルブローグと言います。
ジョンロブのブラインドフルブローグモデル
ジョンロブではウィドナー、ワーウィックがブラインドフルブローグモデルになります。
自社工房を持たない頃はウィドナーはエドワードグリーンが製造してモデル名はありませんでした。
その後自社製となりウィドナーと言う名称が与えられ、2000年代に入ってからワーウィックと言うモデル名でプレステージラインの仲間入りを果たしました。
プレステージラインではウィドナーにあったピンキングも無くしよりノーブルなスタイルになりました。
ジョンロブのデザイナーが最も美しい靴と称したのは嘘では無いのだろう。
と言うのも後にフラッグシップのフィリップと同様にローファーとダービーまでを展開したのはこのワーウィックだったからです。
ジョンロブ1990年代と2000年代の違い
90年代後半からEUでは環境問題が盛んに話題になったと言います。そのため工業廃水が問題となる皮革工場は窮地に陥り、さらに狂牛問題が重なり良質な皮革が急激に失われていきました。
偶然にもジョンロブが90年代の職人の工房感を払拭しエルメス資本のエレガンスとブランド力を押し出したのが2000年以降でした。それまでは茶色の箱とイメージだったのをイエローをブランドカラーとして人目につく様に変更したのです。
今回はその90年代ジョンロブと2000年代ジョンロブの比較です。
革質の違い
画像では表現できないため文章だけになってしまうのですが、年代が古いほど風合いが豊かな気がします。
古い革は肌理がはっきりとしてざらついてるのにブラッシングだけで光るツヤ感があり表面は硬質でクリームで磨くとガラスの様な強い光沢が出てきます。
雨に濡れても乾いたときに硬くなりにくく、なったとしても油分の浸透性が良く柔らかく戻りやすいです。最近の革は柔らかく戻ったとしても雨に濡れる前よりも劣化した風合いになることが多いです。
劣化した風合いと言うのは革がざらついていたりブラッシングで光沢が出にくくなったりシワの痕が残りやすくなったり、なんと無く革に軋んだ感触が出ると言った具合です。
90年代 VS 00年代 ジョンロブ比較
実物での比較です。
向かって左が90年代、右が00年代です。
写真の角度もあるかと思いますが、ぱっと見で判別できるのは00年代は内振りが強く小指付け根が広がっていて幅広に見えます。
同じラストですが00年代は指周りにゆとりをもたせ履き心地をよくする様に変わっています。
はるか昔は足を冷やして小さい靴を履くのが貴族の証と言う考えがあったとのことですが今は足に優しくコンフォートでありながら外見はエレガントに見えること、履き心地と美しさと言う相反する要素をいかに両立するかと言う傾向があります。
ジョンロブは同じラストでも時代に合わせて微調整しているとのことです。
ヒールとソールのつなぎ目です。
上が00年代、下が90年代です。
ヒールのコバ(アッパーと靴底の境い目)を見ると90年代の方が段差が少なく見えます。
ビスポークの様にアッパーから滑らかにソールへ繋がっていくシルエットが美しいです。
画像を見ると00年代はアッパーとコバとの段差が目立つくらい張っていますが90年代は段差が出ない様に削ってあります。
足の裏側に入り込んでいく土踏まず部分です。
上が90年代、下が00年代です。
一見すると土踏まず付近は00年代の方が追い込んで見えますが、実際はソール前方が幅広で内振りになっているためカーブが大きく見えているだけです。
コバ自体の張り出しは似た様に見えますが、実際のすくい抜い(アッパーとウェルトを繋げている縫製部)は90年代の方がかなり内側を縫っています。
奥まっていて分かりにくいのですが雰囲気だけでも感じていただければと思います。
土踏まずのすくい縫いが内側を通っていればいるほどアッパーの革が実際の土踏まずに触れる面積が広くなり足裏から支えるようにフィットします。
それが行き過ぎると足が疲れてしまうのですが、ジョンロブはそのサジ加減も素晴らしいです。
次にアッパー外側を見てみます。
上が90年代、下が00年代です。
足裏から一度甲の外側に丸く膨らみ上部に行くにしたがってまたすぼまる立体感は90年代の方が大きいです。
この足裏から手の平で包んだ様な立体感がフィット感、履き心地に大きく影響します。
向かって左が90年代、右が00年代です。
ソールを見ると爪先側の内側への湾曲が大きく指の付け根が広いのが00年代です。
土踏まずを内側へ追い込んで革を強く張らなくとも、土踏まずにフィットしつつ履き心地が優しいものになりました。
古いほど土踏まずの内側への追い込みが強く足裏からの押し上げやフィット感も強くなっていきますが、履き心地の良さとのバランスが大切です。
まとめ
古い靴ほど、吊り込みは足の裏側へ巻き込まれてそこから持ち上げられています。
アッパーも丸く立体的に形成されています。
これは良い靴と悪い靴の見分け方として共通しています。
また、アッパーもキメ細かく部位ごとのムラがありません。指で甲を押したときに細かいシワが均質に入るものが良い革です。
とは言えどちらもジョンロブ、手持ちの靴との兼ね合いやニーズに合わせて選択するべきです。
90年代は8695ラストは全ての基本となるベーシックなラストと言う立ち位置でした。
7000ラストができて以降の00年代の8695ラストはベーシックに見えてリラックスした履き心地というスタンスに変わりました。
私は外羽根モデルには90年代の8695ラスト、内羽根モデルには00年代の8695ラスト、と使い分けています。
内羽根モデル&7000ラストの相性や大変に良く少しずつ手持ちが切り替わっていったこと、手持ちの内羽根モデルが切り替えや穴飾りの無いノーブルなモデルに変わっていったのですがそれらには90年代よりも00年代の8695ラストの方が好みだったからです。
逆に手持ちの外羽根モデルは穴飾りのあるモデルばかりなのですが90年代の少し細身なシルエットが好みです。
外羽根&穴飾りモデルと00年代8695ラストの組み合わせはカントリー感や重厚感が強く感じられます。
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