テロワールを求めて

趣味(靴、旅、道具、バイク等)を通して自問自答し理想の自分を導き出すまでの道すがら。

オールデンのコードバンを磨いてみる

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久しぶりのコードバンです。

かつては集めていたコードバン、元々リーガルから革靴を集め始め次に向かった先が米国靴でした。

その時に集めていたのがコードバンで、結局全ての靴がコードバンに置き換わっていました。

コレクションが揃ったところで改めてどの様なテーマのコレクションなのかコーディネートや履き心地も含めて自問自答をした結果、私には米国靴もコードバンも合わないと言う結論になり手放してしまいました。

当時集めていた70〜80年代のコードバンに比べて、90年代から現代のコードバンは品質が劣っていることを実感しており、これを手放したら二度とコードバンの靴が手元に来ることは無いだろうなとその時は思いました。

それがたまたま手元にオールデンのコードバンが流れてきたのでとりあえず磨いてみることにしました。

見ている分には本当に美しく満足感の高い靴ですがどうしても私のイメージとは合いません。 

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磨き終わった状態です。もっと光らせることもできますが表面が水飴の様になっている靴はどうも苦手です。

画像よりはもう少し光らせた方が良いと後から思いました。 

 

 オールデンとは

1884年マサチューセッツ州ミドルボロウにて創立されたオールデンは、米国の靴文化を象徴するシューメーカーです。
選りすぐられた最上級の素材を用い、コンフォータブルなフィット感を備えたそのシューズは、アメリカントラッドを語るうえで不可欠の存在です。
1970年代には、特殊な形状の医療用矯正靴がファッションシーンでも高く評価され、素晴らしい履き心地とともに名声を世界へと広げました。

コードバンとは

コードバンとは馬の臀部、それも表面の銀面ではなく床と呼ばれる間の層からなる皮革です。

全ての馬からは取れず僅かな農耕馬の臀部のさらに僅かな面積からしか取れない希少な素材です。

実は毛羽だった繊維なのですがスエードとは違いとても密な繊維の層で、磨いた時に濡れた様なガラスの様な強い光沢と見る角度によって色が変わって見える奥行きと透明感が特徴です。

カーフを鏡面にした時の様な表面に透明な層が塗り重ねられたのとは違う革自体が光っている様な奥行き感と透明感があります。

 

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毛羽だった素材と言うのもポイントで、スムースレザーボックスカーフと違い表面的な擦れは磨くことで完全に消すことができる強い革でもあります。

雨に弱いと言うのも銀面がなく床面剥き出しのため、磨いて寝かしつけた毛羽が立ってしまうと言うだけのことです。

唯一の弱点は唐突に破断してしまうことです。固いのに引っ張りに対して弱いため力のかかる部位は丁寧に手入れをして履いていても唐突に裂けることがあります。

コードバンのメンテナンス道具

コードバンのメンテナンスはシンプルです。

銀面が無いためワックスだけで良いと言う意見もあります。

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ワックスポリッシュ

コードバンのケアはワックスだけで良いと言います。

ワックスは化粧だと言う紹介をされることばかりですが、ちゃんとしたワックスは油分が入っていますので革に必要な栄養が入ってます。

磨いた後に革が柔らかくなっていることを実感できます。

もちろんワックスだけでケアをしていると堆積してしまうので適時剥がす事は必要だと思います。

今回はオールデンのコードバンなので、伝統的にキウィのパレードグロスを使用します。サフィールノワールの方が上質な油分が浸透している様な感触がありますが、米国靴の少し雑な作りと道具としての雰囲気にはパレードグロスが気分なのです。

さらに光らせたい場合はサフィールノワールのミラーグロスと言う鏡面磨き専用ワックスもあります。

ただしミラーグロスは完全に鏡面磨き専用のため爪先の先端の様なポイント使いに留めた方が良いです。

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ポリッシュコットン

高密度のシャツのハリのある生地が良いと言う人もいれば、ネル生地が良いと言う人もいます。

ネル生地でもシャツ生地でも素材自体の質が重要な気がします。

柔らかい感触で磨くネル生地と、ダイレクトな手応えを感じさせるシャツ生地という磨き心地の差を感じますがどちらも同じ様に光ります。

私はzシャツ生地の方が好みです。

ハンドラップ

コードバンの磨きで効率的に全体を光らせるには使う水の分量が大切です。

皿に水を用意すればそれで良いのですが、コットンの広い面積に少量の水を広げるにはハンドラップが便利です。

慣れればあってもなくてもそこまで変わらないのかもしれません。

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ホースヘアブラシ

ワックスを均質な厚みにするために合間合間に適時ブラッシングして慣らす様にしています。

一見美しい光沢でも、手が入りにくいウェルト付近やパーツの切り替え付近にワックスの段差が感じられる靴を見ると厚塗り具合に冷めてしまいます。

コードバンではなくともホースヘアブラシでブラッシングすることで全体が滑らかに自然な風合いと艶になります。

埃払い用とは別に普段のブラッシング用にホースヘアブラシがあった方が良いと思います。

コードバンを磨いてみた

今回は水洗いから始めてみることにしました。

水洗い

コードバンは水に弱いと言われていますが、私はこれまで何度も水洗いをしてきましたが問題は起こっていません。

今回は水洗い専用ブラシも使って入念に磨きました。

多少艶が失われた程度で残念ながら元の質が良くてすぐ光りそうな雰囲気があります。

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ポリッシング

水洗いによって以前のクリーム類は綺麗に落ちています。

最初は磨くと言うよりは繊維を埋める様なイメージで力を入れて磨いていきます。

ある程度ワックスを塗って白く濁ったら少し時間を置いてからコットンで磨きます。

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薄く一層ごとに光らせるイメージで塗り重ねていくとコーティングは薄いのに艶がありそれでいて曇りにくく強い膜ができます。

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最初は引っ掛かりを感じるのですが、水とワックスを交互に繰り返し磨いていると急に滑りが良くなってきます。

この滑りが良くなってくるまでが難しく、逆にこうなると一気に輝きが増してきます。

つい嬉しくなって磨きすぎてしまうと他の部位と光り方を揃えるのが難しくなってきます。

滑りが良くなったら程々にして他の部位を磨いた方が後々楽です。

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向かって右側(右足)が磨き終わったものです。磨く前とは随分状態が変わっていると思います。

このガラスの様な、もっと磨くと水飴の様な艶がコードバンの醍醐味でカーフをいくら磨いてもこの様にはなりません。

光り始めるとワックスが定着しやすくなり、気をつけないといかにもと言う厚いワックスの層が積み上がってしまいます。

 

コーティングされている様なものは好みでは無いため適度なところで終了します。

改めて見るともう少しコードバンらしく光らせても良いのかなとは思います。

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 簡単に光らせるための裏技

ワックスに火をつけます。

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しばらくするとワックスが溶けてきますので火を消して乾く前に靴に塗ります。

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靴に塗ったワックスが冷めて乾いてから磨けば簡単に光ります。

 

ただの洒落であり私は絶対にこの様な方法はとりません。

「靴のケアは化粧の様に」とはよくメディアで紹介されますが、顔に対してこの様な雑な方法は誰も取らないはずです。

靴を光らせるためなら何でもして良いのか、靴を大切にしているとは言い難い行為と感じます。

かつて鏡面磨きというものが日本に知られ始めた頃、”厚く塗り重ねガラス玉の様にとにかく鏡の様に光らせること”、"ごく薄く他の部位から自然に繋がる様に、それでいて水に濡れた様な艶ができること"、の二種類のゴールで議論されていました。

プロの靴磨きショップがたくさんできたことでその様な議論がされることはなくなりました。

コンテストや飾り物ならともかくガラス玉の様に磨く靴磨き職人がいないことが答えです。

洋服とのコーディネートを考えても自然な装いとは言えないものになってしまいます。

靴を磨く方法に裏技はありません。楽をするのではなく技術を磨くこと、そうでなければそもそも革靴、高級靴と言う古くから変わらない伝統を趣味にする必要はないのですから。